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2008.11.30

ドナルド・キーン氏との対談「異文化に身を置いて感じること、見えてくること」

11月24日、ドナルド・キーン氏と塩野さんの対談「異文化に身を置いて感じること、見えてくること」を聴いてきました。

会場は北とぴあ「天覧の間」。定員130名のところ500通を超える応募があり、急遽、対談風景を映像で見ることのできる別会場も用意されました。対談のコーディネーターは、お二人と古くから親交のある粕谷一希氏。

対談は内容が多岐にわたり話題もかなり錯綜していましたが、印象に残ったところをいくつか書きたいと思います。記憶違いや誤解しているところもあるかと思います。

まず、キーンさんが永井道雄や嶋中鵬二と親交があり、そのおかげで谷崎潤一郎、川端康成、永井荷風といった高名な作家にも会うことができた、という話について。塩野さんは、「私にはそのようなきちんとした交友関係がなかったから、ボーイフレンドを利用した(笑)」と語った後、「自分はイタリア人から親切にされないのに、キーン先生はなぜこれほどまでに日本人から親切にされるのかを考えた。キーン先生と私は異文化の接し方の対極。先生は日本文学に惚れ込み、それを翻訳して欧米に紹介した。『あなたの作品を翻訳して広めたい』と言われれば、どんな作家でもうれしいに違いない。一方、私は翻訳ではなく自分で書いてしまった。心から賛同でき、翻訳して紹介したいと思えるものが欧米の著作にはなかったからだ。だから、研究者などと知り合うことがあっても交流は長続きしなかった」と語っていました。

また、キーンさんが「私の英語の著作は日本語に翻訳されるのを念頭に置いているので、あいまいな表現を避け、極力ひとつの意味にしか解釈できない言葉を選んで書いている」と言うと、塩野さんは「カエサルやキケロもひとつの意味にしか解釈できない言葉を選んでいる。カエサルは議場で、キケロならば法廷などで、相手に話して理解させることが前提だからだ。しかしタキトゥスやセネカあたりになると、何通りもの意味に解釈できる言葉を使っている。著作を読んで理解してもらうことが前提だからだ。私も編集者から『名文とはわかりやすい文章のことだ』と教えられたことがあり、以来それを心がけている」と述べておられました。

キーンさんが大変な美食家だという話題では、「日本の文化を理解するために食べるものもできるだけ日本食にしていた。幸い、日本人がおいしいというものは私にとってもおいしかった」というキーンさんに対し、塩野さんは「食も重要というのは同感だが、幸いにして私たちは日本とイタリアという、食べ物がおいしい国にいるからそう感じるのかもしれない。私の遊学先がイギリスだったら、意見は違っていたかもしれない(笑)」と語りました。これにキーンさんが「私は5年間イギリスに留学していたことがあるが、確かに料理は大したことはなかった(笑)」と同意すると、塩野さんは「ただ、これについてはイギリス人も反論している。『われわれは議会制民主主義を創り、パクス・ブリタニカを築き、背広も創った。このうえ料理まで上手かったら、神様はいくらなんでも不公平だ』と」と冗談を述べられ、聴衆の笑いを誘っていました。

最後には聴衆からの質問を受ける時間が設けられました。これに口火を切ったのは我らが西牟田さん(笑)。『ローマ人の物語』を英訳するならどのような訳が良いか、というキーンさんに対する質問だったのですが、これをまず塩野さんが受けて、「これはキーン先生には困った質問かもしれない。なぜなら、われわれ二人は対極だからだ。つまり、私は日本に飽き足らなくて西洋へ渡ったが、キーン先生は西洋に飽き足らなくて日本に来たということだ」と答えました。そして翻訳については、「出版社が見つからないので自費でやることにした。翻訳するのはより多くの人に読んでもらいたいというのと、もう一つ、野茂やイチローと同じ気持ちというのもある。つまり、西洋史の本場で自分の作品が通用するのかどうかを見てみたい。ただ、音楽やスポーツと違って文学は翻訳という作業が必要になる」と意欲を示していました。年を重ねてもなおますます意気軒高といった塩野さんのご様子には、本当に感嘆させられました。

リンク: MEDITERRANEO 塩野七生の世界 Blog: ドナルド・キーン氏との対談イベント.

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コメント

司馬さん、対談内容ご報告ありがとうございました。
読み返してみて、確かにそういったことを言っておられたと思い出しては楽しませてもらっています。

投稿: 西牟田 | 2008.12.03 21:01

司馬さん、ご紹介ありがとうございました。
新刊も楽しみですね。

また、何が情報を見つけましたら、ご連絡いたします。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

投稿: MISAKI | 2008.12.12 23:22

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