国際交流基金シンポジウム・基調講演レポート
さる11月9日、国際交流基金設立40周年記念シンポジウムでの塩野さんによる基調講演(記事参照)を聴いてきました。少々辛辣な内容もユーモアを交えて話され、会場には和やかな笑いが起きていました。以下にかいつまんでご紹介したいと思います。なお、例によって記憶のみに頼って書いていますので、誤りや抜けも多々あろうかと思います。
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私は死者を相手にする仕事をしているので、生きた人間、それもこのような大勢の人間を前に話すことにはまったく慣れていない。そこで、この講演は二部構成をとることにした。第一部は、国際交流基金(以下、基金)がこのような場で話してほしいと思っていそうなこと。第二部は、基金も組織である以上は存在するであろう守旧派が、話してほしくないと思いそうなことを話す。
政治交流には、考え方の違い――例えば、民主政がよいと考えるか、それとも他の政体か――という壁がある。経済交流は、利害が一致するときはうまくいくが、搾取する・されるの関係になったとき、壁ができる。技術交流は、技術を盗まれる恐れがあると考えたとき、壁ができる。宗教交流は、昨今は随分進んできたと言われるが、実はそうそう一筋縄ではいかない。一神教は自分が信じる以外の神を認めないからだ。
その点、文化交流は便利。好きか、嫌いか、無関心か、このうちのどれか一つしかない。ここに、基金が存在する意義がある。――ここまでが第一部。
第二部は、基金の次の40年のための提言。
日本人が、日本をテーマにして作ったものが日本文化、というのが日本の官僚あたりが考える日本文化の定義。これをぜひ見直してほしい。ローマにある日本文化会館には、日本人による日本をテーマにした本しか置いていないが、イギリス、フランス、ドイツの文化会館に行くと、その国の人たちがイタリアについて書いた本がたくさん置いてある。自国文化に対する考え方が違うのだと思う。
職員を総合職と一般職を分ける。格差は悪ではなく、格差の固定化が悪。各国の文化会館に最低一人は総合職をおいてほしい。決められたことだけをやって客の入りには無関心、ということにならないためだ。
女性の活用。外国人の中には意地の悪いことをいう人もいる。そんなときにはユーモアとウィットに富んだ切り返しが有効だが、この種の能力ほど日本の男に欠けている能力もない。ただし従来のタイプのフェミニストは、男性社会を敵視しているのでだめ。これは男も巻き込んでいかなければ成しえない事業なのだから。怒り、恨み、羨望から新しいものは生まれないと確信している。
若者の活用。才能というのは先天的なものだが、勘というのは、実はとても後天的なもの。これを養うのに不可欠な経験を積ませるため、基金が先陣を切って若者を活用し、日本企業の模範になってほしい。
これまでの基金の40年は、主に官僚と学者が担ってきた。これからは、自ら作る人と、他人の作ったものを売るプロにも担わせるべき。自ら作る人は、自分が作ったものを広めたいという熱意を持っている。また、広めるためにはプロの持つノウハウが役に立つ。これらの人々は基金にとっては異分子になるが、異分子と接触しない組織は長続きしない。ヴェネツィアやローマがそうだったし、今の日本全体を覆っている大企業病的な閉塞感も、純粋培養のゆえだと思う。
今日の話は、批判ではなく激励だと思ってほしい。そして、基金に協力しようと思ってくれた人がもしいたらうれしい。歴史に名を残す人物は、自己生産能力を持つ人の活用にも長けていたのだから。
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講演の内容は以上です。ちなみに、シンポジウムのパンフレットに書かれた塩野さんの肩書が「小説家」となっていることについて、塩野さんからお叱りがあったそうです。小説家ではなく「作家」が適切とのことで、お詫びして訂正します、と基金の理事長が「開会の辞」の中で話していました。
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コメント
司馬さんよくまとめておられます。朝日新聞は何をまとめたのか良くわからなかったので助かります。ありがとうございます。
投稿: 西牟田 | 2012.11.20 23:44
講演の内容を知りたいと思っていたので,報告があり,とても嬉しく思います。「私は死者を相手にする仕事をしているので、生きた人間、それもこのような大勢の人間を前に話すことにはまったく慣れていない。」というのは塩野さんらしいですね。
投稿: Iwao | 2012.11.21 15:56
>西牟田さん
過分なお褒めをいただき、ありがとうございます。記憶を元に書いたいい加減な記事ですが、少しでも参考になればうれしいです。
>Iwaoさん
本当にいろんな意味で塩野さんらしい言葉だと思います。歴史を書くことが自分の本来の仕事だと、固く信じていらっしゃるんでしょうね。
投稿: 司馬聡 | 2012.11.21 19:55
基金とは誰のために使われるものなのだろうか。
国際交流基金とは誰のために使われるものなのだろうか。
目的が不明。
投稿: カエサル | 2013.10.01 06:30